ゴン麹 酔いどれ散歩千鳥足 <野望と無謀>

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タンクに耳をあてて……父との思い出

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蔵にお邪魔すると一番懐かしいと感じるのが、タンクが並ぶ貯蔵庫だ。

どの蔵にいっても、一番長く、眺めている場所じゃないだろうか。
「お酒を造ってないときでもここは働いてるんだよ」
かつて父はそう教えてくれた。
そして、タンクに耳を当てて楽しそうにしていた。

子どもだった自分は何をしているか
まったくわからなかったけど、
面白がって父の真似っこをしていた。

シーンとしている蔵のなか。
まるでこの世から音という音が消えてしまったような感覚。
静寂さが恐怖心を芽生えさせた。

「こわい」
本能だろう。思わずそう口走った。

そんな自分の声さえ、
タンクに耳をつけたままの父には届かないようで
目を閉じたままタンクにくっついてた。

大好きだった父をまるで大きなタンクに取られたようで不安になったのだろう。
早く父と共に蔵の外にでようと、一生懸命、服を引っ張ってダダをこねた記憶がある。

「そんなに引っ張らんといて(笑)」
父は苦笑いしながら、ようやくタンクから離れてくれた。


あれから何十年も経た。
怖かったタンクの貯蔵庫も
何時も足を運んだ。

かつて父がやっていたように
そっと耳をあててみる。

ヒンヤリとしたタンクの冷たさが
頬に伝わってくる。

目を閉じてじっとしていると
タンクの中にあるお酒が揺らめいている感じが頭に浮かんできた。
絞りも終わり、出荷の時期を待っているお酒。
火入れしているので、酵母や麹もそこにはいない。
だけど確かにタンクのなかで、お酒が蠢いているのをタンクの壁を通して感じる。

その蠢きが揺らめきの波動がこそばゆい。
ついつい笑ってしまった。

そう、父が笑っていたように。

あのときの父も今の自分と同じように
こそばゆかったのだろうか。

父が旅立ってから10数年たった。
蔵の静けさが恐ろしく、「はやく出ようよ」といっていた昔とは異なり、
今では「もっといたい!!!」と別の意味でダダをこねるようになった。

そんな様子を父はきっと笑っているだろうな。
「ほれみたことかっ」と、したり顔で。


献杯。



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by gon1442 | 2013-05-08 08:40 | 本人:ひとりごと

酒呑み&放浪虫一匹がおいしいの酒を飲むために東西南北奔走。フリーランスのライターでありその正体は……ただの呑み助&食いしん坊な一匹麹。焼酎ストーリーテーラーになるべく今年は学びの年。島々にも出現いたします♪


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