「小僧の神様」に由縁あり!志賀直哉が名付け親。
それは秋らしい柔らかな澄んだ日ざしが、
紺のだいぶはげ落ちたのれんの下から静かに店先にさし込んでいる時だった。
店には一人の客もない。帳場格子の中にすわって退屈そうに巻き煙草をふかしていた番頭が、
火鉢のそばで新聞を読んでいる若い番頭にこんな風に話しかけた。
「おい、幸さん。そろそろお前の好きな鮪の脂身が食べられるころだネ」
「ええ」
「今夜あたりどうだね。お店をしまってから出かけるかネ」
「結構ですな」
「外濠に乗って行けば十五分だ」
「そうです」
「あの家のを食っちゃア、このへんのは食えないからネ」
「全くですよ」
若い番頭からは少しさがったしかるべき位置に、
前掛けの下に両手を入れて、行儀よくすわっていた小僧の仙吉は、「ああすし屋の話だな」と思って聞いていた。
京橋にSという同業の店がある。
その店へ時々使いにやられるので、そのすし屋の位置だけはよく知っていた。
仙吉は早く自分も番頭になって、そんな通らしい口をききながら、勝手にそういう家ののれんをくぐる身分になりたいものだと思った。ー志賀直哉 『小僧の神様』より抜粋。
蛇の市 本店。
文豪、志賀直哉が命名した店として文学ファンでは有名。
小僧と富裕紳士が屋台の鮨屋で遭遇することから始まるあの世界。
その鮨屋のモデルとなったと噂されているのがこちらである。
日本橋三越デパートにほど近く、飲食店が並ぶ通りの一角に店はある。
暖簾をくぐり、1階のカウンターに座る。
「つけば」には年配の穏やかそうな表情の職人さんと若手が2人、忙しそうに鮨を握っていた。
「ランチメニューがかなりお得」という情報にメニューをみると
日本橋ランチ 花鳥風月とある。
花と鳥の価格差は300円。
もちろん鳥を頼む。
握りとちらしが選べるので、握りで。
先にサラダとお椀、そして熱いお茶がでてくる。
といいつつも、ランチビールを注文。
するとおとおしにまぐろの中落ちの小鉢もでてきた。
もう、これだけでお腹いっぱい!?になりそうだが、本番はこれから。
綺麗にふかれたつけ台に鮪がとん!と置かれる。
ちょうど食べやすいシャリの大きさ。
もちろん鮪は鮮やかな赤身。
握りたてすぐ、湯気がでてそうな雰囲気さえある。
シャリはほんのり酢を感じるくらいのシンプルさだ。
白身にイカ、エビと酔いタイミングで目の前に置かれていく。
もちろん、自分の食べるペースに合わしてくれているからできる業。
柔らかいネタに光悦を覚え、バランスのいいシャリの硬さに口のなかで舌は踊る。
品のいい甘さの煮穴子に、目は自然と閉じる。
ほんのりかけられたツメが優しく、フワフワした食感はまるで
空に浮かぶ雲を食べているようである。(食べたことないけど)
鰻>穴子というイメージだったけれど、どっこい鰻<穴子だよ! 江戸っ子は♪
(うどん子だろうが!ヾ('o'ヾ('o'ヾ('o';)ォィォィォィ )
ホタテに巻物。本当にいい時間配分に
大食い小僧のお腹もおとなしい。
日本橋の鮨屋というと敷居高いイメージをもつが、こちらは品ありながらも一見さんでも楽しめる雰囲気がある。
つけばにいる職人さんたちの人柄もあるだろう。
「はい、○○です」と目の前においてくれるとき、目をみて教えてくれるので思わず赤面。
照れてしまったgon麹。
小説、『小僧の神様』にでてくる屋台の鮨屋は神田と京橋の間にある。
日本橋はまさにその場所だ。
志賀直哉がこちらをモデルにしたと思っても過言ではない。
鮨は昔の屋台のファストフードというイメージが強い。
こちらも「蛇の目の市太郎」の異名をとる初代が屋台の鮨屋を開いていたそうだ。
志賀直哉もその屋台に通っていたようで親交があったらしい。
しかし関東大震災に被災し、いったんお互いに消息が切れる。
その後、初代はこの地に店を構えた。
でも深き縁というの必ずつながっているものである。
こちらのご近所にある喫茶店に志賀直哉がよく訪れていたそうだ。
ある日、いつものように喫茶店へ向かおうとしたとき、
たまには鮨でもつまもうかと鮨屋の暖簾をくぐったとき、初代と再会。
再会を祝してかどうかはよくわからないが
このとき初代の「蛇の目の市太郎」から「蛇の市」をとり、名付けたのだという。
まさに小説のような内容である。
真実は小説より奇なり。
時代をへて今、その舞台となった世界にお邪魔していると思うと
感動とともに心のワクワクはとまらない。
玉も甘すぎず、gon麹好み。
デザートには自家製ゴマ豆腐の黒蜜掛けと最後の最後まで手をぬかない素敵なランチである。
日本橋ランチ花鳥風月。
鳥でこれなのだから、風、月となるとどんなものがでてくるのか♪
これはもはやご褒美ランチ。
近々再訪せねばならぬ。
それまでに『小僧の神様』をもう一回きちんと読んでおこう。
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DATA)
店名:蛇の市 本店
住所:東京都中央区日本橋室町1-6-7
電話:03-3241-3566
営 :11:00~14:00 17:00~22:00
休 :土日祝
備考:店内は1階のカウンター10席の他、2、3、4階とある。テーブルや個室もある。創業明治22年、120 年という歴史をもつ老舗鮨屋。日本橋魚河岸時代より続く江戸前の伝統鮨を味わえる。夜はそこそこお値段がはるが、ランチはリーズナブルな価格設定となっており、気軽に楽しめる。