麦焼酎発祥の地、壱岐で出会えた焼酎粋人
『猿川』というボトルが目の前にある。
これを「サルコー」と読むことを知ったのは、麦焼酎王国、長崎県壱岐へ着いたときのこと。
「神様の水という意味があると」。船着き場で一緒になったおばさんが教えてくれた。
@『島へ。』38号に掲載中
その昔、九州の西方に位置する壱岐は豊かな耕地で丸麦が実る島だった。
その麦を原料に醸造したのが壱岐の麦焼酎であり、日本で最も古い歴史をもつ焼酎として知られている。そんな壱岐には麦焼酎をつくる蔵が七蔵あり、『猿川』もそのひとつだ。
『猿川』を醸造する猿川伊豆酒造場の弊場内には小さい川の流れている。
この川こそ、壱岐の神水とよばれる清流「猿川」だ。
「うちは土地に恵まれ、神の水に恵まれ、麦にも恵まれている、焼酎造りに最高の場所です。焼酎の歴史は古く、ひとつの日本の文化です。だからこそ、どなたが飲まれても、美味しい焼酎でなくてはいけない」。
そう教えてくれたのは、杜氏であり蔵元の伊豆平さん。
銘酒『猿川』はあっさりとした口当たりの麦焼酎でありながら、米麹の甘さと大麦の香ばしさが綺麗に溶け合った軽やかな旨さがあり、酒飲みに人気の一本。
「壱岐の酒造りは明治以来の有名な麹室カメ仕込み。この醸法が甘く柔らかく、麦こがし香がただよう焼酎に仕上がる。他の麦焼酎とはまた違う風味です」
『猿川』だけではない。超音波熟成でつくられた『円円』もまるで絹を口に含んでいるような術らかで飲みやすく、香りは麦こがしなのに焼酎を飲んでいるような気さえしない。
そう、水、神水を飲んでいるように思えてくるのだ。
「焼酎は誰にでも容易に受け入れられるべき酒であるべき。だから、一番うれしいのはおいしいといってくれること。評論家があれこれ誉めてくれるより、一般人のそのひと言が最高」。
酒飲みなら思わず惚れてしまいそうな蔵元の言葉。谷、川、山に囲まれた蔵の地が壱岐のなかでも酒造りに適した地といわれるのも、目の前に広がる田や川を眺めていると納得できる。そろそろおいとましようとしたとき伊豆さんから酒飲みの心得を伝授してもらった。
「あなたはたくさん酒を飲んでいますね。だからこそ、本当においしい酒を飲みなさい。そして酒の味がわからなくなったときは、基本を思い出しなさい」。
酒造りのなかで一番楽しいと思えるのは、秋口の仕込み初め、初タンクで麹が活動する音を覗いているときだという。
「ここは一番ヒヤヒヤするところで、まさに天国と地獄の一線。苦しみ、それが幸せでもある。だからいつまでタンクを覗いていても飽きることない」。
季節は10月。伊豆さんは今頃タンクの側で麹の音を聞いているのだろうか。
今秋にまた壱岐へ旅してみたい気分になった。
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DATA)
猿川猿川伊豆酒造場
住:長崎県壱岐市芦辺町深江本村触1402
電:0920-45-0200