仕切り屋女将は酔い女将♪
古都、千年の都という響きに酔いしれる。
雅なイメージは京料理にもある。
しっとりとした静かな空間で、癒される音楽が流れ
芸術作品のような色鮮やかな料理の数々。
あ・うんの呼吸で給仕してくれるお店のスタッフの動きは
まさに日本が誇るエンターテイナーだ。
そんな印象が強い京料理で今回お邪魔したのは
180度正反対の空間。
ギュウギュウ詰めのカウンター席、ワイワイガヤガヤ騒ぐ声が注文をする声を消し去る……。
京都三条大橋近くにある「伏見」。
壁には「声高に話さない」「1時間でお願いします」という張り紙が張られている。
この字型のカウンター20席ほどの昔から京都にある大衆酒場だ。
こちらのお通しは慣れないと焦る。
飲み物を注文したあと、階段後ろからでてくるのが
アルミ盆にこれでもかと並んだ数々の小皿ならぬ皿メニュー。
「こんなかから選んでください」というお兄ちゃんに
「どれがおいしいですか?」とたずねたとたん
その後ろから聞こえてきたのが
「どれもおいしい」というキレのある声。伏見名物の女将さんだ。
こちらはとにかく、この女将さんでお店が流れる。
ガラガラと引き戸があいたとたん、女将さんは瞬時にお客さんに指示をとばす。
「あんたらはこっち。あんたはここ。あー。後ろの人はもうちょっとまてるかな?」
ギュウギュウになってきたらカウンターに座っているお客さんに
「もーちょっとつめてくれんかな」と指示。
そう、こちらの女将さんがとにかく「仕切る」。
これについていけない人はかなりキツイだろう。
でもそんなお客さんには「はよ帰り」と言うお母さん。うん、正論だ。
お通しを選び、あふれるほどに注いでくれたビールを飲めば、
伏見客のできあがり。
さて……とのんびりつまみを……といきたいが、ここはそうはいかない。
料理をのんびり選ぼうとすると「何食べるの?」とカウンター内のお母さんが目の前に立つ。
オーダーを聞きにくるというよりはオーダーをいわんかい! という勢いだ。
こういうときは隣のお客さんの食べているものからまずはお願いするとともに
こちらはとにかく旬の魚介が低価格、ボリューム豊富に食べることができるので
鰹のお刺身をチョイス。
おおぶりに切られた贅沢さ。
プリとした食感で力強い弾力性がたまらない。
とにかくメニュー数は多い。が、その回転も早い。
品切れになるとメニュー板が裏返るシステムだ。
そのメニュー板をひっくり返すのはカウンター奥に座るお客さんの役目。
関西ならではの呼び名のメニューもあるので、眺めているだけでも面白い。
「伊勢エビあるで。食べる?」と、各お客さんに聞いてくる女将さん。
伊勢エビ=時価という表記にびびってしまい、手がだせずにいたら、お隣の常連さんの前に
どんとその伊勢エビのお皿は置かれ「あんた食べ」と女将さんの仕切りがはいっていた。
ゴチなのか? とみていると、しっかり伝票につけられている。
いやー。さすが、商売人! 名物女将。。。(^_^;)
ずいきの吉野葛の食感もなめらかで食べやすい。
お酒もぐぃぐぃいいいっとすすむ。
(ぶれてます。すみません)
時計をみるといつのまにか1時間はすぎている。
「1時間でお願いします」という張り紙が目にはいる。
あ……そろそろいわれるかなーとびくびくしつつ、
美味しい料理はまだまだ食べたい。
お酒ももうちょっと飲みたい。
「あのーたこ天いいですか?」とおそるおそる注文する。
「こちらさーん、たこ天ひとつ」という女将さんはいつのまにか笑顔になっていた。
「同じものをください」とお酒も追加。
「こちらさーん、お酒ついかやでー(笑)」。
肉厚のたこ天ぷらは塩でいただこうとすると……
「うちは醤油!」と女将さんの鶴の一声。衣に染みこんでいく醤油。
どなん味になるんだろうと想像しつつも、間違いなくおいしい。
天ぷらの脂っこさが醤油で少し調和された感じもある。
しかもひとつが、デカイ!
たこ天ひとつほおりこめば……口のなかは満員御礼。
旨味の大波が押し寄せてくる。
美味しい美味しいと目がなくなる。ほっぺたおちそうで、にんまりぱくぱく。
それは周りもみんな一緒。
笑顔で楽しそうな空気がカウンターを流れている。
いつのまにかその輪のなかに女将さんも加わる。
談笑しつつ、片付けに注文受付と仕切りに無駄はなし。
おそるべし、名物女将さんだ。
「どこからこられた?」と聞かれ、「東京です」というと
「よーきたね。おつかれさんや」と、まるで昔からの知り合いのように接してくれる。
「うちは開店と同時は人が多いさかい、1時間後くらいにくると入れるよ。その時間が穴場」という
入店レアな情報もこっそり教えてくれた。これはほんと、ありがたい。
「おつけもんもおいしいでー」という女将さんのかけ声に
コの字型のカウンターは一斉挙手!
もちろん、負けずに「はいはーい」と小学生並みに挙手!
お腹満腹でもう食べられない、飲めない……状態になったのは
それから1時間後。
結局お邪魔した時間は2時間強にもなっていた。
「ごちそうさまでした」といおうと女将さんを探すが、次の忙しい時間に入ったのか
カウンター内だけにはとどまらず、厨房内でお手伝いをしている。
それでも外にでるとき厨房内から「またおいでよ」という女将さんの声が聞こえた。
これもこれで京料理。
おいしい京都の名物女将さんにまた会いたくなる。
それもお店の味なのだ。
きっと今宵も女将さんの人柄でどんどん注文はいっていることだろう。
「あんたはこっち。あんた達はそこでかまんね」という仕切り声が聞こえてきそうだ。
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DATA)
店名:伏見
住所 :京都府京都市東山区三条大橋東入ル二町目76
電話:075-751-7458
営業:17:00~22:00(L.O)
休 :日祝