ゴン麹 酔いどれ散歩千鳥足 <野望と無謀>

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ひきつけるもの……

ここは……!
という直感はどんな場面でも感じることがある。

ここもそうなのだろうか。

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暑かった太陽も西のほうへ方向き、辺り一面黄昏。
細い路地奥になにかある……そんな感に導かれるように歩いていくと
暖簾はまだでていない、小料理屋さんをみつけた。
メニューはでているけれど、入り口に灯りはついていない。
夜風をいれるためだろうか、お勝手口は少し開いている。
そぉっとのぞくと綺麗にみがかれた厨房とカウンター。

ここはいい。ここにいきたい。
そういう気持ちにいっぱいになった。
でもいつオープンなのか。

別のお店にはいって時間つぶしとも思ったが、それはそれでもったいない。
15分ばかり周辺を散策し、改めて先ほどの路地に戻る。

細い細い路地だ。こんな道があったのか。
そう思いながら歩くと、うっすらと路地奥に灯りがみえた。
暖簾もでている。

引き戸をカラカラと開けると、カウンター越しに大将と目があった。
職人気質の雰囲気に腰がひけるものの、どうしてもここに入りたいという気持ちが勝る。

「予約していないんですけれど、一人ですが大丈夫でしょうか?」と聞いてみると
大将の鋭い目がフッと和らいだ。

「大丈夫ですよ。どうぞ。いらっしゃいませ」

店の奥から、奥さんだろうか。
笑顔でおしぼりをもってきてくれた。

お勝手口からみたときもかなり狭いと思っていたが、入ってみると狭い。
というか、カウンター8席ほどの広さしかない。

白木のカウンターが灯りで光っている。

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一見でいきなり真ん中というのもおこがましく、入り口の席に座ると
「真ん中でいいですよ」とすすめてくれる大将。
うれしいが、おとっちゃまのgon麹。端っこが落ち着く性格なのである。

食べたいものは初めからきまっていた。

グラスビールを飲みながら、お通しにいただいた里芋とインゲン、イカの煮つけをつつく。
きちんとそれぞれに個別に味が染みこんでいながら、きちんと調和された小鉢。
このお通しだけでも十分、このお店の力量が伺える。

しかもお通しに使われているお皿、三つ叉の変わった形をしていた。
どうも古い品らしい。そんな品を躊躇なくだすところも、大将のこだわりのひとつなのだろう。

「石川芋の酢味噌和えと芝エビのかき揚げをください」
どうしても食べてみたいと思った品、
もちろん、お財布のこともあるので、お値段もそこそこなものをチョイスだ。

できあがるまでにいただいたお酒は高知の美丈夫。
色鮮やかなひょうたんとっくりにはいって目の前に置かれる。
「花」と裏に銘のある朱色の杯に注ぐ。
とくとくとくとく……とリズミカルな音が聞こえ、その振動が指に伝わる。

「いい音♪」
思わず声がでると、大将も
「この音がお酒をさらに美味しくしてくれますよね」と笑っていた。

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有田焼きのように見えるお皿に騎馬戦のような盛りつけでててきたのが
石川芋の酢味噌。

石川芋とはどういう芋なのだろうかと質問してみると、
里芋の小さいものを石川芋というそうだ。

と、いうことは大きいサイズになると里芋になる? 
聞いてみるとそうだという大将。
大きさによって呼び名が違うのはまるで出世魚、いや出世芋か。

石川芋の食感はもちろん里芋に似ていて粘り気も十分。
しかも小さいからこそ味がさらにしっかりしている気がする。
酢味噌もいい塩梅の酸味があり、残暑でへばりかけている体に喝を注入してくれた。

石川芋をひとつほおりこみ、杯をあおる。
とくとくとくという音をたてて、ひょうたんとっくりが歌いだす。

「お酒好きなんだったら、いいものをあげましょう」
と大将がだしてくれたのが

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ほやとなまこの内臓のこのわたの塩辛、莫久来(ばくらい)。

酒呑みの好きそうなものという世界はいくつかある。
そのなかのひとつに海産物や肉類の内蔵系の特徴を
上手く残しながら食べ物に加工してしまう世界である。

しかも、それが手間暇かかり、商品数が少ないというほど、それは珍味と呼ばれ重宝される。
この莫久来は、酒呑みが好む珍味と呼ぶのにふさわしいものだ。
一度食べると普通の塩辛ではモノ足らなくなってしまう旨さがある。
このわたとほやを合わせるとほやの持つ独特の風味がまろやか。
そのうえこのわたの旨味も強くなる食感はどんな酒呑みを唸らせる。
でありながら、生臭さも感じない。

ひとつつまんで口のなかへ。
口のなかに海の磯の香りと旨味が広がる。
日本酒に合う合う合いすぎる……。
(≧∇≦)ノ彡 (≧∇≦)ノ彡 (≧∇≦)ノ彡 (≧∇≦)ノ彡 (≧∇≦)ノ彡 (≧∇≦)ノ彡

笑顔で杯をすすめていると
「おいしそうに飲みますね」と女将さんが笑いだした。

よくいわれるが、やっぱりおいしそうな顔をしているのだろうか。
自分で自分の顔は見られないのが残念だ。

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そんな調子でいると、芝エビのかき揚げがでてきた。
横についているのは太い!松茸。


「松茸ですか! しかも立派すぎる」と悲鳴のような声がでてしまった。


「国産じゃないので、お値段大丈夫ですよ。北朝鮮産ですけれどいい品ですから」
大将がこちらの心を見透かしたように笑っていた。

「四国ご出身ですか? いきなり美丈夫を飲まれるのでそうかと思ったんですけれど」
と聞かれたので、讃岐出身ということをいうと

でてきたのがこれだった。

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「これ、香川の琴平の日本酒なんですよ。飲みやすくておいしいんですよ」

西野金陵の『煌 金陵』。

久しぶりに懐かしいラベルに出会った。
父が杜氏として作っていたお酒だ。
とはいえ、もう旅だってから10年たっているので、これは次の杜氏さんの造りのもの。
それでもこのラベルを考えたのは父の造りのときだった。
カウンターに置かれたラベルをみていると
冬になると全く帰ってこない父に子供のときはなんでだ? と思ったことや
蔵のなかでかくれんぼをした思い出などが次々と思いだしてくる。
いつのまにか目がうるうるしていたらしい。

「どうしたの?」と奥さんが心配そうに傍にきた。
父のいた蔵の酒だということを話をすると大将も女将さんも驚き
そしてこういってくれた。

「今日、うちを訪ねてくれたのは、このお酒が貴方を呼んだのかもね」
「このお酒、全部飲んでいいよ。もちろんお代はいらない。きっと貴方が飲むためにあったんだよ」

大将も女将さんも微笑んでいる。

本当にこのお酒に呼ばれたのか……
単なる偶然なのかもしれない
たまたまなのかもしれない……

でも細い路地をみたとき、この奥に行きたい、なにかある。
そう感じた感覚は確かにあった。

どうしてもここに入りたいという気持ちは強かった。
それがこのお酒の存在だったのかどうか、それは不確かなものだけど

このお店にお邪魔できたのは事実なのだ。

久しぶりに飲む『煌 金陵』。
飲み口がよすぎて、呑み助にはモノ足らないと思うのは相変わらずである。
そういえば、15年前に父から意見を聞かれたことがあった。

「女性に日本酒を飲んでもらうためにはどなんしたらええと思う」

まだ未成年! の娘だぞ。
なあんて不謹慎と怒ることもなく、
そこはgon麹。普通に答えていた(笑)。

「くどくないほうがええよ。すっきり飲めるほうが女性にとって日本酒に入りやすいけん。女の人っていろんな種類の料理を食べるやろ。ほら、和食も好きやん。食事のとき、料理と喧嘩する味やったら、苦手なんとちゃう? あとオシャレ感はいるんかもな」

まったく(^_^;)
当時の自分は全然お酒がわかんないのに
よくもそんな意見をどうどうといっていたものだ。

今は味の濃い、酸味の強い、など癖のある子を好む傾向が強い。
これは年齢のせいだろう(爆)。

一口一口飲むたびにそんな父との記憶が走馬燈のようによみがえってきた。

「喜んでるよ、お酒もお父さんも」という女将さんの声ににっこり。

本当になつかしい時間が過ごせた一夜だった。


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by gon1442 | 2010-09-12 01:34 | 本人:ひとりごと

酒呑み&放浪虫一匹がおいしいの酒を飲むために東西南北奔走。フリーランスのライターでありその正体は……ただの呑み助&食いしん坊な一匹麹。焼酎ストーリーテーラーになるべく今年は学びの年。島々にも出現いたします♪


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